従軍慰安婦問題って?

ニュースでも騒がれているこの問題とは?

戦時性暴力というものを考える場合にその形態が3種類ある。
1.強姦
2.拉致・監禁を伴う性暴力
3.管理売春

「1.強姦」が犯罪であったことは、軍法でも刑法でも明らかであってそれ自体を否定する者はいないだろう。
当然ながら、日本軍が”組織的に”強姦を行った、などということは考えにくく、主たる責任は現場の将兵に帰すると言える。ただし、これを取り締まるための努力を怠った場合、日本軍が管理責任を問われることは言うまでもない。1937年12月から2月までの間に南京で起こった日本軍による多数の強姦事件は、個々の事件の責任は直接的な加害者である将兵個人に帰するが、それを取り締まるための実効性のある努力を怠った、という点(憲兵の配備不足など)では日本軍組織の責任は回避できない。

「2.拉致・監禁を伴う性暴力」は法的に言えば、略取・誘拐・暴行と言ったところだろうか。「1.強姦」と同じく軍法でも刑法でも明確に違法とされている。
巷間で「従軍慰安婦問題」というとまずこの形態が想像されるのではないだろうか?
中隊・小隊レベルならともかく、それ以上のレベルで”組織的に”拉致・監禁を伴う性暴力(強制連行による従軍慰安婦)を行った、などということはやはり考えにくい。小規模な部隊での例であれば、日本軍占領下のインドネシアで1944年2月におきた白馬事件が知られている。
白馬事件とは、南方軍麾下の第16軍幹部候補生隊がオランダ人女性を慰安所に強制連行し売春を強制した、という事件。 この事件は陸軍省に伝わり、慰安婦は解放されるものの、幹部候補生隊が日本軍によって軍法会議にかけられることはなかったらしい。事件の関係者は、戦後になって連合軍によるバタビア裁判でBC級戦犯として死刑を含む有罪判決を受けている。
慰安婦を解放したあたりを見ると、日本軍が軍全体として「従軍慰安婦の強制連行」を推奨していたとは考えにくいが、反面、ろくに処罰をしていない点を考慮すると厳しく規制していたとも言えず事実上は黙認していたと言えよう。
(関係者の事件当時の階級は、将官・佐官を含む高級将校で、末端部隊の暴走で片付けるには違和感がある。また高級将校であるからこそ、ろくに処罰されることがなかったとも言えよう。 (インパール作戦後の人事などが参考になろう))
この形態での戦時性暴力について、責任を問うとしたら第一に直接関係した部隊指揮官であり、日本軍組織としての責任は「1.強姦」同様の管理責任といえるだろう。

「3.管理売春」厳密に従軍慰安婦問題を問うなら、この問題であろうと思う。
戦争犯罪一般について厳しい判断をする人でも、従軍慰安婦となると判断が分かれてしまうのは、この形態の問題をどう捉えているかによるのではなかろうか?

まず、”慰安婦”そのものについて言えば)古今東西珍しくはなく現在でも戦時の部隊駐屯地に存在する物である(呼び名はともかく)。性道徳的にどうなのか、という視点もあるがそれは問わないこととする。
慰安婦の業務を考えると、基本的には、売春婦・売春婦管理者(売春宿の管理人や女衒)・兵士・軍組織という主体が存在する。 売春婦管理者が軍組織に対し営業の許可を求め、売春婦は管理者のもとで兵士に対する売春を行う。
兵士は個人の資格で売春婦を買い、軍組織は兵士の健康管理(性病検査)や兵士と接触する売春婦の健康管理を条件に管理者に営業の許可を与える。 という構成になっている。この構成が守られている限りにおいては軍組織に対する直接的責任は生じない(繰り返すが道徳的な価値観はここでは問わない)。
売春婦が管理者に売春を強制させられている場合、直接的な責任は管理者に帰するもので、軍組織には営業許可を与えたという管理監督責任が問える程度である(「従軍慰安婦問題」では多くの人がこういう主張を行っている)。(なお、法的にはともかく、「じゃぱゆきさん」で日本政府が非難されたように、強制売春を見逃していたことで人権問題として槍玉に挙げられる可能性はあるだろう。)
ここで重要な点は、軍組織はあくまで売春管理者の要望に対して条件付で許可を与えるという消極的な関与しかしていないという点である。

これに対して、日本軍の従軍慰安婦制度の特異な点は、軍組織自らが民間業者に対し、特定の地域に売春婦を集めてくるよう要望した点にある。このことは「軍慰安所従業婦等募集に関する件[陸軍省副官](昭和13.3.4)に「支那事変地に於ける慰安所設置の為 内地に於て之が従業婦等を募集するに当り」や「募集に任ずる者の人選適切を欠き」、「是等の募集等に当りては派遣軍に於て統制し之に任ずる人物の選定を周到適切にし」とあることから明白であろう。(なお、この通牒は陸軍省から北支那方面軍・中支那派遣軍参謀長宛に出された物で、違法業者の取締りのための物ではない。内地での違法募集を取り締まるのなら内務省宛でなければならない。)
※他国に類例が皆無かはよくわからないが、派遣軍参謀長レベルでの公文書に残る形で、かつ、憲兵・警察と連携し軍が慰安婦を要望する、という形式の慰安婦制度は近代では聞いたことがない。

さて、結果として駐屯地付近に売春婦が集まると言う点では、軍が積極的に要望しようがしまいが現地の状況は変わらないのは確かであろう。

しかし、問題なのは、軍という国家の公的組織が管理売春に積極的に関わった、という点である。

管理売春の歴史については、1872年の太政官布告以後人権問題として公娼制度の廃止を求める運動が継続しており、1900年の大審院判決、1907年の刑法制定、と管理売春を取り締まる方向で社会が進んでいったのは、明らかであろう。
1868年、明治天皇が五箇条の御誓文を誓った後に下した勅語に「朕、躬を以って衆に先んじ天地神明に誓い、大にこの国是を定め、万民保全の道を立んとす。」とあるように、国家は本来、国民を保護する義務を負う。管理売春が人権問題である以上、国家はこれを改善するために努力する必要がある(勅語の続きには「衆またこの趣旨に基き協心努力せよ。」とある)。

軍という国家の公的組織が慰安婦を募集すると言うことは、管理売春の廃止という国家としての責務を放棄したことに等しい。
これが慰安婦問題の根幹であって、これを無視した慰安婦問題の是非は枝葉末節に過ぎない。

例えば、

慰安婦の強制連行の有無
日本人慰安婦は訴訟を起こしていない
本人の意志による売春であったか
直接実行したのは業者である

など。
もし仮に、強制連行が皆無で、慰安婦は全く不満を感じておらず、全てが本人の意思による売春だったとしても、国家が募集した、というただ一点において非難されてしかるべき、というのが慰安婦問題である。